求めよ、さらば与えられん
結局薬はジーン王子に奪われてしまった。


隣に座ったジーン王子は濡れたタオルで表面を優しく拭いてくれる。


バルドック城でこの人はとても残酷な事をした。初めて見る血の海に私はただ震えることしかできなかった。あの時のジーン王子と今こうして手当てをしてくれているジーン王子……どちらが本当の顔なの?


薬を塗ると、真っ白な包帯を綺麗に巻いてくれた。



「ありがとう。 慣れてるんだね」

「訓練で怪我をした時は自分でやってるからな」

「え!? 自分で!?」

「軽い怪我ならやってもらう必要はないだろ」



意外。


この人が怪我をするっていうのも意外だけど、偉そうに誰かに頼まないのも意外だった。


色んな一面を知るたびに頭が混乱する。ジーン王子の素顔を知りたいと思ってしまう。



「変わった事はないか」

「変わったことって?」

「クリストフのパーティー以来、変わった事はないかと聞いている」



え?なんで?


変わったこと……。



「んー特には……あ、そう言えばよく声をかけられる様になった気がしなくもない……?」



顔を覚えて下さった方々が声をかけてくれる様になった気がする。友達とまではいかないが、覚えてもらえるのは嬉しい。





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