北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「お電話しても出てくれないって聞いてたんで、てっきり、お耳が遠いかたなんだと」
「昼間は寝てることが多くて、それか仕事しててもヘッドフォンしてて、電話は気づかないんです。ドアホンも、音だけじゃなくて、モニターランプが光るようにしてもらって」
「なるほど」
 凛乃はうなずきながら、累のうなじあたりに挟まっている、どでかいヘッドフォンを見やる。前もサイドもうしろも無造作に伸ばしっぱなしの髪が、器用にまとまっている。
「……で、家政婦をご依頼されたのは、間違いないんですね?」
 うつむくように、累はうなずいた。
 不思議と、納得はした。在宅仕事で、自分には無頓着。だれかの影響や指図を受けなくて済む状況で、片付いてないというより時間が止まったような家の中。住んでるくせに不慣れな様子。“とめ子さん”の不在証明は、とっくに出揃っていた。
 気づかれないように小さく、ため息をつく。
 これじゃ、辞退するしかない。話がちがいすぎる。
「あのですね」
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