北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「あのさ」
 笑み崩れた累の顔を睨んでいた凛乃は、ふいにこっちに焦点を合わせた視線にたじろいだ。
「な、なんですか?」
「名前で呼んでいい?」
「名前というと、つまりファーストネーム?」
 反射的な疑問のあと、ふと家政婦ドラマを思い浮かべた。雇い主からそういう呼ばれかたをしているのを、見たことがある。
「勤務年数が長ければ、そういう流れもあるかもしれませんけど、大事ですか? 呼び名って」
「ばあちゃんのことは名前で呼んでる」
「あ、すみません。直しま」
「直さなくていい。それでいい。でもこっちも、そういうふうに呼びたい」
「そういうご要望なら、まあ……でも急にどうしたんですか」
 累は視線をはずして、つぶやくように言った。「猫だと思えば緊張しないかと思って」
「え……」
< 101 / 233 >

この作品をシェア

pagetop