北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 緊張!? いまだに!?
 申し訳ない気分に襲われて、凛乃は小さくのけぞった。
 気を遣ってもらっているのは、よくわかっているつもりだった。恐れていたようなバスルームでの鉢合わせどころか、累とはほとんど遭遇しない。同じ家の中にいるのに、顔を合わせる時間は1日1時間以下ということも、よくある。ゴミの日の朝には廊下に出された小さなゴミ袋で、そうじゃない昼間にはドアに耳をつけて、生存確認をしなければ気が済まないくらいだ。
 累がなにを気に入って雇ってくれたのかわからないけど、それがいわゆる性的魅力じゃない自信はあった。凛乃はカギのない納戸でもしっかり眠れるようになって、居ないに等しいけどぜったいに居るという累の絶妙な存在感に、安心感すら覚えていた。
 でも累が、異分子に対する緊張という苦痛のために息をひそめていたのだとしたら、それは是正すべきだ。
「はい。お好きに呼んでください」
 累はほっとしたようにうなずいて、腰を上げた。
< 102 / 233 >

この作品をシェア

pagetop