北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「いいところに来た。サスケ、庭に回って」
「え、庭? なんで?」
 問いかけには答えずに、ドアを閉めにかかる。佐佑は跳ねながら従順に玄関を離れていったけど、凛乃の責める声が上がった。
「瀬戸さんの扱い、ちょっとかわいそうですよ」
 ドアを閉めるのと、凛乃がふりかえるのが同時だった。
 鼻先が触れ合いそうなほど、顔が接近していた。凛乃の背後からドアに手を伸ばしたから、腕の中に閉じこめたうえに、上半身で覆いかぶさってしまっている。
 凛乃は「ひゃっ」と息を飲んで、口は半開き、眼をこぼれ落ちそうに真ん丸にすると、するりと脇をすり抜けて、廊下をぱたぱたと走っていった。
 累は身体が傾くままに凛乃がつっかけていた健康サンダルを踏みつけて、ようやく自分を止めた。
「あれっ、累は?」
「えっと、顔、洗ってくるんじゃないですかね?」
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