北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 楽しげな佐佑と、うわずった凛乃の会話が和室のほうから聞こえてきた。誘導されたようにとぼとぼと洗面所に向かい、顔を洗う。
 気をつけないと。
 タオルで顔を拭きながら、累はぐっと奥歯をかみしめた。好きにならないって言われたんだから。つるこは近づきすぎて、いなくなってしまったんだから。
 和室に向かうと、スーツのジャケットを脱いだ佐佑が、隣家のブロック塀に向かって野球のピッチングの真似をしていた。
「子供のころはよくここに入れてもらってさー、夏はスイカ食べたりとか、花火やったこともあるなー」
「でもいま、冷たくないですか」
「あぁ、あれはね」
 佐佑が凛乃のほうにかがみこんで、なにかささやいている。聞くまでもなく、ろくなことを言ってないに決まってる。
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