北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「瀬戸さん」
 凛乃が言い争いに分け入る。「このエプロン、累さんが用意してくださったんですよ」自分のマグカップを片手に、エプロンの裾をひっぱって拡げてみせた。
 あれは、トイレットペーパーや洗剤をいつものネットショップで注文するときに、偶然目に留まったものだ。届いた荷物をいっしょに仕分けしたどさくさまぎれに手渡したら、凛乃はきょとんとしていた。
「なんですか?」
「……福利厚生?」
 凛乃が顔の前で思いっきり拡げたから、表情は見えなかった。でもそれからエプロンに顔を埋めこんで、3秒ほど身悶えした。
「ありがとう、ございます」
「うん」
「給料から天引きしてくださいね」
「しない。作業着だから」
 エプロンから顔を上げた凛乃は、ほんのり紅く色づいていた。
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