北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「えー、なんだよ対抗心かよーかわいいなおまえ」
「うるさい。それと気持ち悪い」
 佐佑はなぜかうれしそうに笑ってグラスを傾ける。
「飲んだら帰れ」
「手伝わせといてひどいな」
「身重の奥さんが待ってるだろ。長居するヒマあるか」
「すぐ帰るけど、久しぶりなんだから味わわせてよ」
 左手をうしろについて、佐佑はのうのうと庭を眺める。物置以外は植木のひとつもない殺風景な庭は、凛乃が草むしりをしてくれたおかげで、以前よりはすっきりしていた。
「猫は? どっかいってんの?」
「……いまはいない」
「そっかー。おれ、嫌われてたよね。逃げられるか引っかかれた記憶しかない」
「おまえはかまいすぎなんだよ」
 ふふっと、凛乃の笑い声が聞こえた。ふたりしてふりむくと、膝をついて新しい麦茶を差し出しながら、凛乃が笑顔で言い訳する。
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