北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 佐助に気を使わせても悪い。凛乃は救われたような表情で笑ってみせる。
「そうなんですかね」
「そうなんだよ。あいつが憂鬱そうに外なんか見てると、悩みごとでもあんのかなとか焦るよね? あの顔でさ、頬杖なんかついちゃってさ、中高の時はそれでアンニュイ~とか言われてひそかにモテたりしたんだけど、でもちがうから! 早く帰って猫と遊びたいとか、唐揚げのトッピングはなにがベストかとかしか考えてないから。これ、本人に聞いたから!」
 短く笑いを返しながら、ふと気づく。
 瀬戸さんは、つるこちゃんのこと、知らないんだ。
 おそらくだれとも共有していない、幻のような猫との暮らし。その身代わりになるだなんて、思い上がりもいいところだ。
 凛乃と佐佑は食材のひとつもカゴに入れずに、店内をぐるぐると回遊しつづける。凛乃の頭のなかも同じだった。佐佑がよかれと吹き込んでくる累情報に笑みを生やしながら、その渦は加速する。
 わたしは助けてもらった。次はわたしが、助けになる番だ。もう、ジャマになっちゃいけない。
「おれね、あいつを笑かしたいんだよね。あんまり笑わないからさ、かといって怒ってるわけじゃなくて、つまんないわけでもないらしいから、笑えばいいのになって思う」
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