北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
『なりゆきで同棲してるひとを好きなったんだけど、彼は私を家政婦としか見てない。どうすれば対等につきえある?』
『社内恋愛禁止なのに、上司を好きになりました。仕事はもちろんがんばるけど、ふりむいてもらうにはどうすればいい?』
 少しウソをついて、少し事実を混ぜて細切れにして、これはと思うところに悩みをぶつけてみた。でも正直じゃない問いには、的外れな答えしか返ってこない。
 結局、自分がなぜこんなに足踏みしているのか、自問せざるを得なかった。
 雇用関係としては良好、危険を冒して告る理由はなく、現状におおむね満足している。
 なのに、焦燥感が胸の奥でくすぶる。
 近いうちに居場所を無くす危機感からそうなっているのか、もっと別の理由があるのか、だれかがずばりと指摘してくれたらいいのにと思ったけど、空振りだった。
 凛乃はエプロンのポケットからボディシートを出し、首筋にうっすらかいていた汗を拭いた。
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