北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「うぁああ」
 とっさに首が降り切れそうなくらい、横を向いた。
「そんな恰好でなにしてるんですかっ」
「シャワー……」
 累は口ごもったあと、弁解した。「隣の部屋にいると思って」
「そう、でしたね。いつもならそうしてる時間なんですけど、ちょっと水分補給してました。でも家の中では、なにか着てもらえると助かります!」
 ふっ、と、笑いを堪えるような声を残して、累がおとなしく2階へあがっていく。
 凛乃はそっと首を正面に戻した。脱衣室のドアが半開きになっている。
 思わず、額を叩くように押さえた。
 なにを着ようが着まいが、雇い主の自由だ。いままでの気遣いを、義務みたいに言うのはおかしい。
 凛乃は謝罪の言葉をかけようと、階段を上がりかけた。
「っっなんで上だけなんですかぁ!?」
 自室を出てきた累の、でろでろによれたTシャツの下は、ボクサーパンツのままだった。
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