北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「そんなこと言ってられないんです。ここが売りに出されるまで、もう残り少ないですから」
 傷ついた心身は充分に休ませてもらった。これからは累が1日も早く元の生活を取り戻せるように、ちょっとムリしてでも働かなきゃならない。
「おれに止める権利はないけど」
 言外に不服さをにじませて、累は庭に目を戻す。
「片付け終わったあとのことは考えてみる」
 優しい声を響かせる広い背中。
 思うように稼げないのはもどかしくて閉塞するばかりなのに、まだここにいるしかないと思うとホッとする自分を見つけてしまう。
 凛乃はくるりと踵を返して、累に背を向けた。すみずみまで見渡せるようになった部屋が、とても広く見えた。
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