北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
   ◆
 通話を切ってすぐ、累はその着信履歴を削除した。
 続けて不動産会社の連絡先をも削除しようとして、少しためらう。
 家の売却を、白紙にしきれなかった。
 翻意の理由をしつこく訊かれるなかで凛乃の顔が頭をよぎったところを、担当者につけこまれた。自分に確たる勝算もなかった結果が、売却の無期限延期だ。
 これだけで、1日分の仕事をしたのと同等の疲労だった。
 累はスマートフォンをこたつテーブルの上に放り出した。少しだけひんやりとした縁側に大の字に寝そべり、曇り空の下で元気を失くして見える庭に目をやった。
 これで凛乃の<家がない不安>を軽くできるかはわからない。でも先日の答えとして、言おうと心に決めた。
 ここでの仕事がなくなっても、凛乃はここにいられる。ここを拠点にして、どこにだって仕事を求めればいい。
 疑似会社勤めペースを崩さない凛乃に合わせるために、累は夜型だった生活を変えようとしている。このまえまで仕事が立て込んでいたのもあって、なかなか思うように調整できなかったけど、こちらのタイムテーブルが定まらなければ、凛乃も仕事を探しにくいはずだ。
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