北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 ただ、累が寝ている時間を狙って働く、つまり起きているときは寝る、という凛乃の案には、もう賛同できない。食事のあとにリビングを立ち去り難いと思ったときから、そういう自分を認めたときから、持ち時間の比重はまったく変わっている。
 でも肝心の凛乃は、片付け中の部屋を閉め切って出てこない。たぶんもうすぐ午前の仕事を終えるはずだけど、声かけも音もなく静かに出かけてしまうこともあるから、ここで耳を澄ませているしかない。
 累はパッと顔を上げた。
 殺風景な庭を長方形に切り取るガラス戸の向こう、猫の声が聞こえた。か細く、いまにも途切れそうに弱い。
 累は濡れ縁に飛び出して、ざっと庭を見回し、腹ばいで縁の下を覗き込んだ。
 でもいくら探しても、一対の光も見当たらなかった。
「ひゃおっ」
 ヒトのものとは思えないヘンな声が、今度は背後から注がれた。
 首をあげてふりむくと、凛乃が腰を抜かしたように中腰で胸に手を当てていた。
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