北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
   ◆
 返事をごまかした累の表情を探りながら、凛乃は正直に答えた。
「住むとこを無くしたら、急に家が欲しくなったんです。最初は妄想でしたけど、ここに住んでるうちに、家さえあればこんなに安心なんだ、って気持ちが強くなって。でも家ならなんでもいいわけじゃないんです。この家が欲しいんです」
「最初から気に入ってたみたいだったし」
「好きなところばっかりです」
「階段下の入り口。アルコーヴ? ほかにも」
「間取りとか作りだけじゃないんですよ。キッチンの出入り口のアーチの垂れ壁とか、そこのガラス戸の格子のアンティークとモダンのデザインバランスとか、障子の一部がたぶんあれ猫ちゃんのだれかが空けた穴を色つき和紙で張り替えてるところとか、もうなんなんだよってくらい大好きなんです」
 熱を込めた凛乃の視線から、累が逃げた。
「この家を売るって話はなくなった。ついさっき、不動産屋と話して」
「……そう、なんですか」
 身体中から力が抜けて、正座が横に崩れた。
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