北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 ガッカリする権利は、ない。冷静に現況を見れば、買い手として名乗りを上げるのも、おこがましい。明日の不安がない生活をさせてもらっているうえに、また甘えようとした自分が情けなかった。
「でも、これでもう凛乃は出ていかなくていい」
 うなだれた耳に累のつぶやきが聞こえて、凛乃は落胆を隠すのも忘れて反応した。
「そんなことないですよ。期限がなくなっただけで、仮住まいに変わりはありません。資金が貯まり次第、出ていかなきゃ」
 言いおわるなり、顔を振りあげた。
「まさか、そのために売るのをやめたんですか?」
 凛乃の追及に恐れをなしたように、累が口をぎゅっと結んだ。
「ダメですよ、わたしより累さんの都合が絶対優先です! だってお金とか、もっと都心に近いところに住みたいとか、理由があって売ろうとしてたんですよね」
「どうしてもってことじゃなかった。おれには持てあます広さだし、猫も居つかないような家、いらないと思っただけ」
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