北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「凛乃がいいなら金額は関係ない。でも、条件がある」
「そうじゃないと怖いですよ」
「おれをこのまま仕事部屋に住まわせてほしい。それだったら家賃として給料を払う」
「もうなにを言ってるかわからない。どうしちゃったんですか。なんだか混乱してませんか?」
「……そうかもしれない」
 頭をかかえるように、累は両肩のあいだに顔をもぐらせた。
「どうしてそんな……」
 問いかけておいて、湧き上がる動揺の渦を収めるただひとつの模範解答に自らたどりついて、凛乃は乾いた笑いをもらす。
「あー、そうか、累さんにとってわたしは、つるこちゃんの身代わりなんでしたっけね」
 今度こそ手元に置いておきたい居候猫。ご機嫌をとるためなら家ごと差し出す。それはぜったいに猫を釣れる極上のマタタビ。
「そうだけど、ちがう。おれは」
 どこか投げやりに見えた累が、ふっきれたように背筋を伸ばし、どこまでもまっすぐに凛乃を見据えた。
「おれは、凛乃に、ここに居てほしい」
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