北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「そういえばここ、美容院も床屋さんも入ってるんですよ」
 凛乃が背中を反らすようにして、累の背後を見上げた。
「あとは髪をもう少しさっぱりとされると、エグゼクティブ感が出て」
「そんなのはいらない」
「もったいないなー。まぁスーツに合わせる云々じゃなくても、暑そうではあるんで、切ればいいのになーと思います。ちなみに美容院派ですか? 床屋派?」
「自分で切ってる」
「ええっ」
「美容院も床屋も苦手」
「結構いるんですね、そういうひと。わたしの義理の兄もそう言って姉に切ってもらってます」
 いいことを聞いた。
 顔をのぞきこんで頼む。「凛乃が切ってくれない?」
「え、素人のわたしに頼むなんて」
 拒否するように言いつつ、ハサミの形になった手はちょきちょきとなにかを切り刻んでいる。
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