北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「お姉さんはプロ?」
「ちがいますけど」
「じゃあおんなじ。どんなふうになっても文句言わないから」
 お任せを強調すると、凛乃は「知りませんからね」と承諾した。
「人の髪をいじるのってきらいじゃないですけど、切るとなると、あともどりできませんので。覚悟してください」
「おれよりはうまいと思うよ」
「後頭部なら累さんより上手に切る自信はあります」
 凛乃は自慢げに顔をつんと上げた。
 館内案内板を見つけて、ふたりで歩み寄る。凛乃が現在地をさがす横で、累はちがう文字を拾った。
「夕飯、ここで食べよう。時間早いけど」
 属性ごとに色分けされたフロアマップに、見知った飲食店の名前がいくつかある。返事がない凛乃を見ると、「んんん」と小さくうなっていた。
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