北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 言われるままにバッグを差し出そうとして、凛乃は手を止めた。
「重いので」
「だから」
「まえにわたしが解体したハンガーラックを抱えて持ち帰ったとき、足場でも組むのかってびっくりしてたの、覚えてます? あれより軽いんだから、だいじょうぶですよ」
「見せて」
 累は言葉を変えてきた。凛乃がなおも渋ると、「それ欲しい」と言ってきた。
「ゴミですって」
「いらないなら、ちょうだい」
「オブジェとして使います」
 にらみあうように対峙していると、別の路線の最終電車から吐き出された客で一時、駅のなかに波が発生した。
 濁流に押し流されたふたつの小石のように、ふたりで柱の陰へ退避する。人がはけたころには、急に疲れが襲ってきた。
「帰ろう」
 押し問答を蒸し返すことなく、累が傘を差しだしてきた。
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