北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
玄関ドアのまえで方向転換して、庭に入りこんだ。この雨だ。猫はきっと、縁の下にいる。雨を避けて、助けを求めている。
「凛乃?」
続けて庭に入ってきた累が驚いたように駆け寄ってくる。凛乃は傘を放り出し、ビジネストートを濡れ縁に投げ置いて、膝をついて縁の下を覗き込んでいた。
腕を引いて立たせようとする累の手を、凛乃は振り払った。
「ここで猫が鳴いてたんです。助けてあげなきゃ」
凛乃が動かないとみると、累は庭に転がっていた傘を拾い、凛乃に差しかけた。
「朝になったらおれがやる。中に入ろう」
「先に入っててください。わたしは猫を助けます」
「凛乃はいい。それは、おれがやる」
べったりと濡れそぼった髪から、頬に雨が流れる。泥にまみれたストッキングは、砂利に膝をついたところから伝線していた。スーツも形状記憶のブラウスも、雨を含んで身体に張り付いて、しわしわの渋皮みたいになっている。
「こんな姿見たら、猫も怖がっちゃうか」
笑おうとしたけど、喉の奥がひきつっただけだった。
「凛乃?」
続けて庭に入ってきた累が驚いたように駆け寄ってくる。凛乃は傘を放り出し、ビジネストートを濡れ縁に投げ置いて、膝をついて縁の下を覗き込んでいた。
腕を引いて立たせようとする累の手を、凛乃は振り払った。
「ここで猫が鳴いてたんです。助けてあげなきゃ」
凛乃が動かないとみると、累は庭に転がっていた傘を拾い、凛乃に差しかけた。
「朝になったらおれがやる。中に入ろう」
「先に入っててください。わたしは猫を助けます」
「凛乃はいい。それは、おれがやる」
べったりと濡れそぼった髪から、頬に雨が流れる。泥にまみれたストッキングは、砂利に膝をついたところから伝線していた。スーツも形状記憶のブラウスも、雨を含んで身体に張り付いて、しわしわの渋皮みたいになっている。
「こんな姿見たら、猫も怖がっちゃうか」
笑おうとしたけど、喉の奥がひきつっただけだった。