北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 納戸のドアは少し開いていた。薄っぺらい求人誌をドア下に挟んで、10cmほどの開口を維持している。熱帯夜を過ごすには心もとない換気対策に自分を責めながら、ドアをノックする。
「凛乃、おはよう」
 応じる声も衣擦れの音も聞こえない。2度目のノックをするよりも、累は「入るよ」と言い切った。
 古い扇風機のモーター音と、くぐもったバイブレーションの音が、低く合奏していた。すのこ、マットレス、シーツ、その上にグリーンのタオルケットの塊。納戸の中は意外に風が流れていたけど、タオルケットにくるまらなければならないほど涼しくはない。
 凛乃は壁に背をつけるようにして、丸くなって寝ていた。枕元に近づいて頬に触れる。赤い肌の凛乃が目を覚ました。
「あ」
「熱がある」
「すみません……寝坊しました」
 力なくスマートフォンをつかんで起き上がろうとする凛乃の肩を押して、マットレスに戻す。
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