北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 ミニ冷蔵庫の上に置いた小箱を指さしてふりかえる。凛乃はゼリー飲料を袋から取り出していた。いい選択だ。袋に戻そうとするのを取り上げてキャップをひねってやると、凛乃は戸惑いがちに口を付けた。
「飲んだら、シャワーいただいていいですか」
「軽めに済ませたほうがいい。まだ汗かくだろうし」
「すみません。ベッド汚してしまって」
「おれのベッドしか寝るところなくてごめん」
 累は謝り返して、さらに重ねた。
「これまでの疲れが出たんだと思う。夏が終わるまで、ここで寝て」
 凛乃が咎めるように見る。でもひるんでいられない。
「エアコンのある部屋で寝ないと、また身体壊す。これからもっと暑くなるんだし」
「そうしたら、累さんはどこで寝るんですか」
「……下」
 ほんとうは、凛乃と入れ違いに同じベッドで寝ることを、無意識のうちに想定していた。以前のように、まるで逆の生活サイクルにすれば可能だという単純計算。でも無邪気にベッドを共有できる関係ではないことを、ひりつく空気に感じる。
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