北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 うしろ姿を見送る祖母は、口調ほど気楽な顔をしていなかった。白猫が腹に受けた傷は、ようやく新しい毛が生えてきたところだ。
「おれがいっぱい遊んであげるのに、外のほうがおもしろいってこと?」
 やきもちに似た苛立ちを、当の白猫ではない相手にぶつける。
「お外では遊ぶだけじゃないよ。お勉強もするし、イヤなこともまぁあるけど、テリトリーを見回る大事なお仕事もあるしね」
「ついていってもいい?」
「猫には猫のルールがあるから、おまえは行けない」
 祖母は微笑んで、累の頬を軽くつまんだ。
「そんな顔しないで。あの子の家はここだよ。帰ってきたら、ここがいちばん好きってこと」
「帰ってくる?」
「おまえがしるこのこと大好きなのは、しるこもわかってるからね」
 もうなにもしないと言ったところで、凛乃が家出をやめるとは思えない。自分の気持ちを曲げても隠しても無いことにはならないから、伝えかたを変えていくしかない。
 ふとモニターに影が差した気がして、累は顔を上げた。
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