北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 凛乃が目の前に立っていた。
 思わずあとずさって、ヘッドフォンをはずす。
「すみません、声かけたんですけど」
「ごめん。聞こえなくて」
 ヘッドフォンからは、累も理解できない異国の歌詞が大音量で流れている。
「もう夕食の時間ですけど、お相伴できないので、申し訳ありませんがご自由におとりください。わたしは今日、納戸で寝ます」
「でも」
「使わせていただいたシーツとタオルケットはこれから洗濯しますが、替えのある場所がわからないので、ご自身でご用意ください。それ以外はできるだけ元に戻しました。今夜からいつもどおりにお休みください。失礼します」
 慇懃無礼に一方的な通告をすると、凛乃はすぐに踵を返した。連れ帰った熱い夜気と冷えすぎていたリビングの空気が、混ざって溶け合わずにマーブル模様になる。
「もう決めた?」
 そんな気がして、累は尋ねた。凛乃は背を向けたまま、うなずいた。
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