北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
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 ハンカチで包んだ保冷剤を扇風機にくくりつけて、凛乃はマットレスにどすんと腰を下ろした。
 納戸は今夜も蒸し暑い。“最強”で回し始めた扇風機の威力をもってしても、その風の前から1メートルも離れがたい。
 それでも凛乃は濡れタオルを首に巻き付けて、荷物をまとめはじめた。
間借りの最初のころ、冷凍庫には意外にも冷凍食品は入ってなかった。かわりに、パック売りの刺身についてきたと思われる保冷剤が、笑ってしまうほどころがっていた。この夏そこに、特売で買い込んだ分葱をカットして小分けにしたものが割り込んだ。
 わたしがいなくても、いつでもそうめんに薬味が入れられますね。
 9時4時の通いになれば、朝食も夕食もできたてを出すというわけにはいかない。今までと逆に、昼食だけ作って1日の栄養をフォローしようとすると、いっしょに昼食を食べる流れになりそうだ。それは気まずい。累の本来の希望通り、掃除のみに徹するべきだろうか。
 累に相談しようと頭では考えるけど、腰がマットレスから離れなかった。
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