北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 放射状に拡がる線を、時間をかけて、ていねいになぞる。サンドタイマーを目の高さに持って行って、仕上がりを確かめた。ヒビが消せるどころか、むしろその傷跡が盛り上がって目立つ。でも、接着剤はガラスの一部になって、ちゃんと中の砂を守る。
 これで持っていけるね。どこで眠ることになっても、だいじょうぶ。
 砂が落ちきるまえにひっくりかえして、傷のある部分を納戸の照明に向けた。砂に反射する光が、ヒビのところでちょっと歪んで落ちてゆく。
 これはこれで、キレイかも。
 泣きそうになるまえに少しだけ、微笑むことができた。
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