北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「すみません」
 ほとんど音にもなってないささやき声で、凛乃が謝った。
「静かにしないと」
 せわしなく動く目が、階下を気にしている。不穏な様子に、口を解放された累も極小の声で訊いた。「どうかした?」
「へんな音がしたんですリビングのほうで」
 怯えた様子の凛乃が、早口になる。
「保冷剤を取りに行こうとしたら、あ、熱じゃないです冷風を作るのに、いや、そんなのどうでもいいや」
「落ち着いて」
 なにかが床に落ちたような衝撃音が、キッチンと思われる方向から聞こえた。たぶん鍋のフタだ。丸くて固い輪っかが回転する音が、どんどん速度を速めてから、治まった。
 凛乃の身体がぎゅっと縮んでいる。累はドアを静かに大きく開いた。
「なかにいて。見てくる」
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