北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 腕がこすれあうほど近くですれちがう累のTシャツが、引っ張られた。
「ちがうんです、なんとかしてくれってことじゃなくて」
 凛乃の真剣な瞳に捕らわれる。
「いっしょに逃げましょう」
 心臓が、甘く痛んだ。
 身を案じてくれたことが、浮足立つほどうれしい。差し伸べられたその手をからめとって、窓から逃避行に飛び立ちたいくらいだ。でも。
 凛乃の怯えを取り除くのが先。
 累は小さくうなずき、凛乃の肘をやさしく叩いた。
「ここで待ってて」
 凛乃の手から、力が抜けた。
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