北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
◆
遅い。
累が階下に降りてから、物音もしない時間が続いている。続きすぎている。暴漢ともみ合う音が聞こえるよりは、と思ったけど、無事なら無事ですぐに戻ってこないのはおかしい。
一言も発することができない状況だったら。
凛乃は悪い想像を抑えることができずに、がくがく震える足でなんとか階下まで下りた。玄関横を通り過ぎるときに、傘立てから傘を抜き取る。どうしても腰がうしろに引けてしまうけど、それを竹刀のように構えた。
「あ」
「っ!」
階段下から累が顔を出した。いつも見るままの表情に、負の要素はない。凛乃と同じように傘を持っていたけど、手首にただぶら下がっているだけだ。
こわばる身体をゆるめることができなくて突っ立っている凛乃に、累が「ごめん、おれのせい」ゆっくり近づいてきた。
「え?」
「庭に来るやつがいるんなら餌付けしようと思って、台所で猫缶開けて、濡れ縁の戸、開けておいた」
遅い。
累が階下に降りてから、物音もしない時間が続いている。続きすぎている。暴漢ともみ合う音が聞こえるよりは、と思ったけど、無事なら無事ですぐに戻ってこないのはおかしい。
一言も発することができない状況だったら。
凛乃は悪い想像を抑えることができずに、がくがく震える足でなんとか階下まで下りた。玄関横を通り過ぎるときに、傘立てから傘を抜き取る。どうしても腰がうしろに引けてしまうけど、それを竹刀のように構えた。
「あ」
「っ!」
階段下から累が顔を出した。いつも見るままの表情に、負の要素はない。凛乃と同じように傘を持っていたけど、手首にただぶら下がっているだけだ。
こわばる身体をゆるめることができなくて突っ立っている凛乃に、累が「ごめん、おれのせい」ゆっくり近づいてきた。
「え?」
「庭に来るやつがいるんなら餌付けしようと思って、台所で猫缶開けて、濡れ縁の戸、開けておいた」