北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 うなずく気配がして、累が両腕を拡げてくれた。
 今度は自分から飛び込むように、身体を預ける。夜が明けたら出ていくと思えば、あとさき知らずだ。大胆にも胸を合わせてしがみついて、肩口にあごを載せた。
 手が髪を滑る。洗いたての髪の艶やかさと、その下にある丸みを帯びた骨格を確かめるように、何度も、何度も。とても気持ちいいけどその手つきは、怯えさせたことを気に病んでというより、猫の毛並みを撫でるのと似ている。
「猫、飼おうとしてたんですか?」
 少しだけがっかりしながら問うた。
「凛乃が、いなくなるから」
 答える累の声が、耳からでなく触れあう身体から伝わる。
 こんなに安心できる場所から離れるなんて、できるはずがないのに。
 だからこそ少し意地悪な気持ちになって、「猫がいてくれれば、もうわたし、いてもしょうがないですね」
「凛乃が出ていくから必要になったのに」
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