北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 累の手が止まってしまった。
 凛乃は累のうなじに置いていた指の先を、下に滑らせた。かすかに鼓動が伝わる。とても速い。
 でもきっと、わたしのほうが速い。
「ここにいたくない?」
 累が低くささやいた。
「いたいですよ」
「じゃあ、いて」
 苦い憤りに、奥歯を噛みしめる。
 わたしは、ただ居るだけでいい猫とはちがう。
「甘えられないですよ」
「おれが凛乃を好きになったら困るから?」

 ……いま。なんて言った?
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