北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「……それ日本語?」
「日本語です。こうやって、こするように上げて」凛乃は縁側との境にある障子戸の下半分の桟を持って、垂直に持ち上げた。「下を猫が通れるようにしてあるのが、猫間障子です。ここにガラスが入って景色を眺めるようになっていれば、雪見障子っていうらしいですけど」
「はじめて知った」
「まさに猫のための建具ですね。そういえばいま、猫ちゃんって?」
 あたりをきょろきょろしながら凛乃が訊くと、累は眉根を寄せたあと、低い声で答えた。
「いまは飼ってない」
「あ、そうなんですね」
 じゃあ、あの鈴の音は?
 触れてはいけないポイントだったらしいことを察して、凛乃は踏み込む言葉を飲みこんだ。
「こっち」
 改まって、着物箪笥のまえにふたりで並ぶ。
「価値のあるものもあるらしいんだけど、おれはよくわからない」
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