北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「アルコーヴ?」
 怪訝な顔をする累の横をすり抜けて、おそらく元は大きめのクローゼットだったらしい空間へ近づいた。ベッドの横幅がクローゼットからはみ出ていて、足元の壁には取り外された引き戸が立てかけてある。
「壁をえぐったような空間にベッドが置かれたのを、アルコーヴベッドっていうんです。わたしこういう隠れ家感、すごく好きで! わぁ、いいなあ」
 人が寝た痕があるシーツにでも、寝転がってみたい衝動を押さえつける。
「パイプベッドに高さがあるし、マットレス厚いですね。ホテルのベッドみたい! そのぶん天井が近くて、この狭さがまた! 巣ごもり感が! もしかしてこういうのお好きですか?」
 興奮する凛乃に、累が遠慮がちに答える。
「介護しやすいようにと思って買ったんだけど、ベッドはイヤだって言われて」
「あ……すみません」
 気まずさに目をそらすと、累はもうドアに向かっていた。
「べつに。買っただけで、ばあちゃんは使ってないし」
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