北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 暗に断ったつもりだったけど、累は右手を差し出してきた。しかたなく、凛乃も右手を出す。おそるおそるふんわり握ってみた累の手は意外にも温かくて、返す力の入れ加減が、くらっとするほど優しかった。
 凛乃は思わず、ぎゅっと目とつぶった。
 なんにも支えがないからって、目の前にあるってだけのものを掴もうだなんて、情けない。弱ってて、なんでもかんでもよく見えるだけ。そんなまちがい、相手に迷惑。失礼。
 呪文のように、自分に言い聞かせる。
 だいじょうぶ。わたしはこのひとに恋はしない。
「え?」
「え?」
「……それでいいけど」
 ぼそりと答えられて気づいた。心のつぶやきが、声に出ていたらしい。はじき飛ばすように、手を離した。
「え、あの、いえ……、はい。仕事ですからね。大事なことですからね」
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