北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「おれ累くんの幼馴染で、高校のとき引っ越したんですけど、結婚して1年前にこっち戻ってきて、すごく近所に住んでて」
 瀬戸さんというひとは、なんでこんなにうれしそうなんだろう。やばい人? 開けたらどうなるの?
 ドアのまえで躊躇していると、背後から腕が伸びてきた。
「ひいいい」
 思わず飛び退いてシューズボックスをガタガタ言わせると、累が戸惑いながらも「ごめん」と消え入りそうな声で謝った。凛乃を驚かした手をドアノブに置いて、ドアに背をつける。
「佐佑、朝からうるさい」
 さっきのしょんぼりさからは想像もつかないしかめっ面で、累がドアの向こうに脅しをかけた。
「あ、累、ねえ、いまのひとって」
「遅刻するぞ」
「え、やべっ。あとでぜったい紹介してよー。あぅ、重っ」
 ガサガサいう音とともに、声が遠ざかっていく。
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