北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 雑な回答に苦笑いが出る。
 曲名を答えてもわからないと思ったのかな。
「そうですか」
 凹みを隠して受け止めると、累がおもむろにヘッドフォンをはずして、凛乃にすっぽりはめた。
「へっ?」
 耳に流れ込んできたのは、ハープかなにかがメインのアップテンポな旋律だった。多重的にいろんな楽器の音も聞こえるけれど、歌はない。いわゆるインストゥルメンタルだ。たしかにこれは。
「……“音楽”、ですね」
 凛乃は累との答え合わせがうまくいった勢いで、伸び上がるように顔を上げた。
 目の前の累が身を反らした。累の腕の中に数秒間いたことに凛乃が気付くと、累もハッとしたようにヘッドフォンを引き抜いた。
「ごめん」
「いえ……あの、ありがとうございます」
 さっさとヘッドフォンを自分にはめなおした累に、お礼が聞こえたかはわからない。キッチンを出ていくのを見送ってから、凛乃はこたつテーブルに戻った。
 わざわざ聴かせてくれたのは、うれしかった。それだけ。
 慌てて喉に流し込んだ牛乳に、凛乃はむせた。
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