北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「焼きナスはやめときますね。お味噌汁は何出汁ですか?」
「任せる」
 累の手はもうドアノブにかかっていた。食事については丸投げ、ということらしい。
「いってらっしゃい」
 さっさと出て行こうとするのに間に合うように、凛乃はすばやく声をかけた。累がドアノブをつかんだまま、時間を止めた。
「いってきます」
 ややあって、累はぼそりと応じると、出かけていった。
「あーぅ」
 累の姿が消えるなり、凛乃は唸った。
 “いってらっしゃいませ”だ! 研修でやったのに!
 家族を見送るみたいにしてしまったことを悔やんで、凛乃は大人げなく地団太を踏んだ。
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