北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
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 日が長くなったから、六時を過ぎても外は明るい。凛乃は掃除の手を止めて、キッチンの窓から赤い夕陽を眺めた。
 実働6時間という約束ながら、今日は結構動き回った。まだ職探しができるほど落ち着いてないのもあって、できることといえば家事しかなかった。
 これ以上やったら逆に中途半端に終わらざるを得ないと判断して、掃除を切り上げる。掃除も洗濯も片づけも、なにをするにもまず、道具探しと在庫把握から始めなきゃならない。それが他人の家のめんどくささだ。
 コタツ布団と上掛けをはずしたあとのテーブルに、麦茶を注いだマグカップを置き、腰を下ろす。スマートフォンをいじってみたけど、だれにもこの新生活を報告してないから、だれからもアクセスはない。そもそも友人たちはこの時間、まだ仕事をしているか、帰宅途中のはずだ。
 なにやってるんだろう、わたし。
 ついこのあいだまで同じように、通勤電車にうんざりしつつ、毎日が単調だの、ランチしか楽しみがないだの、ぶつくさ言いながらも給料分はしっかり働いて、やるべきことはやってきた。心おきなく自分の生活を支配しているつもりだった。
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