北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 出かけることを知ったのが直前だったのと、カギを預かって安心していたから、携帯番号も聞いてない。共同生活に必要なものがまだ把握し切れてない証拠だ。
 いつでも焼けるように準備してある鮭をもう一度確かめたとき、ドアホンが鳴った。
 玄関先に走り、「はーい」と応じながらカギに手をかけたところで、「瀬戸です」と声が聞こえた。
 あやうく開けそうになったカギに指を載せたまま、凛乃は息を飲んだ。累が気を遣ってピンポンしたとしか思わなかった自分のバカさ加減にあきれる。
 いまさら居留守は使えない。しかたなく、「主は留守にしております」と事務的に答えた。
「あ、それならよかった!」
 ドアの向こうではむしろホッとしたようだった。
「開けなくていいから少し聞いて! ほんとは累に来るなって言われたんだけど、あいつあんなだし、とっつきにくいだろ? もしつらいこととか困ったことがあったら力になりたいと思ってさ!」
 ドア越しだからか、やたらに声が張っている。
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