北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
   ◆ 
「維盛さん、裁縫得意?」
 20時近くになって帰宅するなり、累が問うた。ハテナ顔の凛乃は、おずおずと差し出されたジャケットをあちこちひっくり返して、右腕の袖の付け根が10センチ近くぱっくりと口を開けているのを発見した。
「あー、袖が取れかかってるんですね。やっぱり小さかったんですよ、サイズ」
「ボタンつけはできるんだけど……」
 冷蔵庫から麦茶を出しながら、累がつぶやく。
「わたしもスーツを直したことないんで、縫い合わせるくらいしか……。もとのシルエットを再現できる気がしません。買い替えをお勧めします。身体に合ってなさそうだし」
 凛乃が最後の一言を強調すると、累は左斜め上の空中をあてもなく見上げた。
「ワンサイズあげて……」
「ネットで買うつもりですか? ダメですよ、ちゃんと店舗で試着したほうがいいです。今後もお仕事で着るなら、プロに見繕ってもらいましょう!」
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