北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「あれっ、スイーツじゃない」
「母親の名前も、白い百合って書いてさゆりって読む」
 凛乃は思わず感嘆の溜息をついた。
「こだわりたくなるの、わかる気がします」
「しかもこの家の白猫はみんな瞳が琥珀色だから、母親は初めておれの目を見たとき、『やっぱり!』って叫んだらしい」
「ふふっ、なんていうか、かわいらしいかたですね、お母さんて」
「子供心に、理屈を感覚でねじ伏せる人だなって思ってた。この目の色は、『わたしのおなかから産まれてなくても、おまえがわたしの成分で出来ている証拠』、なんだって」
 「へえ」とあいづちを打ちかけて、引っかかった。
「それっていうのは」
 訊いてはいけないことだとは感じなかった。母親をちょっと困ったひとみたいに語る累の声が、ちっとも困ってないように聞こえた。
「特別養子縁組って知ってる?」
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