北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
凛乃はまた物入れの扉によりかかった。
「わたしなんて父親と目元がそっくりで、まちがいなく血縁なのはしょうがないけど、ぜんぜん噛みあわないんですよ特に母と。いまどき、仕事は適当でいいから結婚しろ、男の人に甘えないと選ばれない、バカのフリをしないと敬遠されるって、真顔で諭してくるんですよ。価値観とかちがいすぎて、我ながら、どうしてあの家庭でこれが育ったんだろうって思います。憎んでるとかじゃなくて、とにかく合わない。だから住むところが無くなっても、実家には帰りたくなかったんです」
薄いガラス戸が、打ちつける雨と風でふるえた。身体を揺すられたみたいに、ふと我に返った。外はあんなに荒れているのに、こんなにどうでもいい話をしている。
「ごめんなさい。つまんない意地で、ご迷惑おかけしてますね」
「迷惑とはちがう」
喰い気味に、累が言った。「そういうんじゃない」
それはこういうことだ、と続くと思いきや、なにもなかった。凛乃が代わりになにか言おうとしたとき、ひときわ大きな稲妻がひらめいた。カウントする間もなく、背骨まで震わすような大きな音が続いた。
「わたしなんて父親と目元がそっくりで、まちがいなく血縁なのはしょうがないけど、ぜんぜん噛みあわないんですよ特に母と。いまどき、仕事は適当でいいから結婚しろ、男の人に甘えないと選ばれない、バカのフリをしないと敬遠されるって、真顔で諭してくるんですよ。価値観とかちがいすぎて、我ながら、どうしてあの家庭でこれが育ったんだろうって思います。憎んでるとかじゃなくて、とにかく合わない。だから住むところが無くなっても、実家には帰りたくなかったんです」
薄いガラス戸が、打ちつける雨と風でふるえた。身体を揺すられたみたいに、ふと我に返った。外はあんなに荒れているのに、こんなにどうでもいい話をしている。
「ごめんなさい。つまんない意地で、ご迷惑おかけしてますね」
「迷惑とはちがう」
喰い気味に、累が言った。「そういうんじゃない」
それはこういうことだ、と続くと思いきや、なにもなかった。凛乃が代わりになにか言おうとしたとき、ひときわ大きな稲妻がひらめいた。カウントする間もなく、背骨まで震わすような大きな音が続いた。