北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 うつろな累の目線は、濡れ縁のうえで跳ねる水滴にそそがれていた。
「つるこが居付いてくれたらよかったんだけど。もう懐いたと思って首輪つけたら、ふらっと出て行って、二度と帰って来なくなった」
「もしかしてその首輪、鈴がついてたりします?」
「そうだけど?」
「やっぱり! つるこちゃん近くにいますよ。わたし、鈴の音、何回か聞きましたもん!」
「おれも聞いたことはある」
 驚喜するかと思ったのに、累は平坦に応じた。
「でも幻聴だと思う。帰ってこないってことは」
「そうなんですかねえ」
「そもそも飼ってたっていうより、この家がつるこのテリトリーに入れられてただけで、おれは動く付属品だったし」
「世話をしてくれる人だと認識されてない?」
「触ろうとすると機嫌が悪くなるのに、手を出すのをこらえてると、わざとおれを踏み超えて行ったり、クッション代わりにする」
< 98 / 233 >

この作品をシェア

pagetop