悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

 やがて運ばれてきた料理の上に、店員がラクレットチーズをかける。

 熱されたチーズの塊が滝のように流れ、もったりと肉の上に落ちるのを、亜里はうっとりして見つめた。

「いただきまーす!」

 皐月はワインを注文していた。乾杯したのち、亜里はすぐにチーズの海にフォークを突き刺した。

「お腹空いたよね」

 静かに言った皐月は、バーニャカウダの野菜をつまむ。

 太らないようにする、すなわち糖質の吸収を穏やかにするには、野菜を一番初めに食べた方がいい。

 栄養士でなくとも誰もが知っていることだ。亜里も一旦手を止め、野菜を手に取った。

 お互いの料理をシェアし、食べながらする話は、やはり仕事のことだ。

「病棟のあの家族さあ……」

 どこで誰に聞かれているかわからないので、小声で話す。

「わかる。ちょっと変だよね。質問がいつもとんちんかんで、こっちがいくら説明しても、都合のいいことしか覚えてないのよ」

 皐月の口からも愚痴が飛び出す。

「それそれ! 看護師の手元をじーっと監視するように見てさあ。そんなに不安なら、もっとお金を出して、つきっきりでベテラン看護師がついてくれるいい病院に行けばいいんだよ」

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