悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

 肉とチーズをがつがつと食らいながら、亜里は話した。

 しばらく患者と医師と仕事のできない看護師、ウマの合わない栄養士の悪口を言いあうと、ふたりともスッキリとした気持ちになってきた。

「やっぱ楽しいね~同期は~」

 亜里はビールの泡を鼻の下に付けて笑った。

 悪口は他病棟の噂に移り変わる。

 どこの誰が産休に入るとか、誰が離婚したとか。

 話が合う人間と飲むのは楽しいものだ。亜里は心の底からそう思っていたのだが。

「うーん、これも美味しい!」

 デザートのハニーモンテビアンコを堪能している亜里に、皐月が言った。

「ねえ、亜里。突然だけど」

「え、なに?」

「私、今月末で病院辞めるの」

 突然の退職宣言に、亜里はスプーンを落としそうになった。

「や、やめ、やめるの? なんで?」

 亜里が見ている限り、皐月は看護師ほど疲弊した様子もなく、患者にクレームをつけられたりすることもそうなかったはずだ。

 なにより、彼女自身、栄養士の仕事を楽しんでいるように亜里には見えていた。

「結婚するから」

 落ちない口紅を塗った皐月の赤い唇から零れた言葉は、ビッグバンほどの衝撃を亜里に与えた。
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