悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
「いよいよだな。身体に気を付けて。幸せにな」
しんみりとした表情で言われると、さすがのアリスも寂しさを感じずにはいられない。
「お父様もお母様もお元気で……」
執事に案内されて、両親とアリスが一緒に屋敷の外に出ると、そこには何台もの馬車が停まっていた。
使用人に荷物の積み込みを指示していた男がアリスに気づき、近づいてくる。
彼女は目の前に立った彼を、思い切り見上げた。がっちりとした体格で、背も高い。さすが国境警備の戦士といった風情だ。
「おおお、これがルーク隊長が一目惚れしたお嬢さんか。なるほどべっぴんさんだ。ちょっと冷たそうなところがまたいいねえ」
彼は分厚い手で、アリスの肩を遠慮なくバンバン叩いた。
「痛いわね! 名乗るのが先でしょう。どういう教育されてんのよ」
無遠慮な手を払いのけると、大男はキョトンとし、次の瞬間盛大に笑いだした。
「こりゃあ威勢がいいや。うちのおかみさんにぴったりだ」
ガハハと声を上げてひとしきり笑う大男に、アリスたちの方が呆気に取られてしまう。
(おかみさんって……。相撲部屋みたい。やっぱり嫌!)