悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
「無礼者、放せ! お母様助けて! こんなのやっぱり嫌っ」
助けを求めて手を伸ばしたが、アリスと母の距離は容赦なく開いていく。
「あらら、最後に寂しくなっちゃったか。大丈夫だよー、怖くないからねー」
カールは笑顔でアリスを馬車の中に下ろし、扉の鍵をかけた。
「ようし、花嫁積み込み完了! 出発だ!」
馬に乗ったカールの号令が響くと、あちらこちらから「あーい」「うえーい」とやる気のなさそうな声が返ってきた。
(これが噂のゴロツキ集団。国境警備隊……)
どうやらメイドたちの噂は真実に近かったらしい。
最後に母の顔を見ようと馬車の窓から外をのぞくと、またお尻の下がふわりと浮く感覚を覚えた。
「お嬢さん、風の魔法でひとっとびで行きますぜ!」
どうやら馬や馬車が、風の魔法で地面から浮遊しているらしい。
ルークのいる国境まで、普通の馬車なら何日もかかる。魔法を使えば半日で行ける。
学生時代は、学校の中に各王子の領地に転移できる魔法陣があった。
個人所有の屋敷に魔法陣を置くのは認められていないので、馬車自体に魔法をかけるしかないのだ。
「“ぜ”って。今時、“ぜ”って。あっちょっと、ま……キャアアアアアーーー!!」
突然新幹線のような速さで走りだした馬車にはつかまるところもなく、アリスは中で転げ回った。