悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

 彼女の視界に映ったのは、無骨な大男ではなかった。オッドアイの美男子だ。

 風に吹かれた黄金の前髪が揺れる。アリスは思わず見とれてしまった。

「大丈夫か。少し休もう」

 彼女の体を受け止め、抱き上げるのは、ルーク王子だった。

 花嫁到着の報を受け、出迎えにきていたらしい。

「え、ええ……。あの、歩きますので降ろしてください」

「顔色が悪い。無理をするな」

 恥ずかしいので降ろしてもらおうとしたら、あっさり拒否された。

 花嫁をお姫様抱っこして歩くルークの周りに、人が集まってくる。

 そのほとんどが、小汚い軍服に身を包んだ男たちである。

 運動部男子の汗の染み込んだ靴のような刺激臭が、アリスの気分を余計に悪くした。

「うわー、本当に女の子だ! しかも綺麗だ!」

「隊長、よかったですね!」

「おめでとうございまーす!」

 中年も若者もいるが、みんな小汚く、殿下と呼ぶべき王子に対してなれなれしい。

「静かにしろ!」

 ルークが一括すると、まるで母親に叱られた子供のように、一瞬は静かになる男たち。

 だがすぐに元の騒がしさが戻ってしまう。

 男たちはルークがすぐ近くにある城に入っても、前庭で歓迎の歌を歌っていた。

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