悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

 だからこそ貴族の娘たちは魔法学校に通い、王子と集団お見合いをしていたのだ。

 誰かから搾取したお金で、何不自由なく暮らせる。そのはずだったから。

 いくらルークが国王に見放されているとはいえ、メイドくらいはいると思っていた。

「掃除も洗濯も料理も、全部私がひとりでやるんですか?」

 考えるだけで涙が出てきた。

 複数の男たちの世話に一生明け暮れる……亜里の世界で言う相撲部屋のおかみさんで、間違いない。

「泣かないでくれ。もちろん、君ひとりにはやらせない」

 無表情を貫いていたルークが、アリスの涙を見て初めて視線を揺らがせた。

「貴族の令嬢にそんなことできるわけがないのはわかっている。俺たちみんなで協力するから、知恵を貸してくれ。頼む」

「知恵を……」

「倒れた令嬢の手当ては見事だった。君はよほどの知恵者なんだろう?」

 アリスは返事に詰まった。

 あの場ですぐ対処できたのは、亜里の記憶が覚醒したからだ。亜里が物知りだったわけではなく、看護師だったというだけ。

「この地には医者がいないんだ」

「えっ! じゃあみんな、病気になったらどうするのです?」

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